甲斐駒ケ岳

甲斐駒ケ岳 標高2,967m 単純標高差約2,197m  歩行距離約17km

行程:駒ケ岳神社市営駐車場(5:15)⇒笹の平分岐(6:22)刃渡り(7:30)⇒刀利天狗7:50)
五合目小屋跡(8:25〜8:35)⇒
七丈小屋(9:20〜9:30)⇒八合目御来迎場(10:10)⇒
駒ケ岳神社本社(11:00)⇒甲斐駒山頂(11:03〜11:30)⇒八合目御来迎場(12:08)⇒
七丈小屋(12:33)⇒刃渡り(13:40)⇒笹の平分岐(14:19)⇒駒ケ岳神社市営駐車場(15:18

(歩行時間9時間16分:全所要時間10時間03分 ※CT:15時間) am5:15〜pm15:18 map yahoo地図  
歩行時間は単行動なので調子や気分によって違いますので参考にはなりません。
日本に数多い駒ヶ岳の中で、甲斐駒ヶ岳(標高2,967m)は王者にふさわしい風格があります。山麓から一気に聳え立つ雄姿は、人々に深い印象を与えています。故深田久弥は、日本百名山」の中で「甲斐駒ヶ岳は名峰である。日本の十名山を選ぶならこの山は落とさないだろう」と言われたそうです。
甲斐駒ケ岳の登山道は、伝統的に黒戸尾根をたどるコースが使われていました。起点が竹宇駒ヶ岳神社と横手駒ヶ岳神社の二つの神社となっていて、笹の原で合流になります。五合目手前の「刃渡り」と七合目手前の鎖場以外、技術的にはあまり困難なところはありませんが、登山口が海抜700 - 800 mの人里から山頂との標高差が2,200 mもあります。日本でも有数の体力を要するルートであるため、近年では北沢峠(標高2,032 m)からのコースを辿る登山者が圧倒的に多いようです。しかしながら甲斐駒ケ岳を拘って登頂するには、厳しい修行参りに使われた表参道から登るのが精神的に鍛えられ、お勧めです。

「日本アルプスで一番つらい登りは、この甲斐駒ヶ岳の表参道かもしれない。何しろ六百米くらいの山麓から、三千米近い頂上まで、殆んど登りずくめである。わが国の山で、その足許からてっぺんまで二千四百米の高度差を持っているのは、富士山以外にはあるまい。木曽駒ヶ岳は、木曽からも伊那側からも、それに近い高度差を持っているが、登山道は長く緩くつけられている。甲斐駒ほど一途に頂上を目がけてはいない。」
(深田久弥『日本百名山』より)
以前から日本三大急登・北アルプス三大急登・三大キレット等の三大○○が気になっていました。当初の予定では剣岳の早月尾根の日帰りか、爺ヶ岳〜鹿島槍ヶ岳〜五竜岳の1泊2日の予定を組んでいましたが、他を圧倒するスペックの南アルプス甲斐駒の黒戸尾根から日帰り往復を無性に歩いてみたくなり、急遽決行します。七丈小屋に水場がありますが、余裕を持って飲み水5リットルと非常食etc・・・、万が一の為ツェルト等もザックに詰めて出発です。悲しい事に前々日、腰に痛みが発生してしまい、処方薬を飲み、腰痛サポーターをザックに入れての強行歩きになりました。※昭和35年頃の貴重な写真を、レポの最後に追加しました。
梅雨の中休みで明日は天気が持ちそうです。仕事を早めに切り上げ、夕方から南アルプスへ向け、車を走らせます。雁坂トンネル有料道路経由でR140からR20経由で車中泊場所の“道の駅はくしゅう”へと向かい、3時間少々で到着です。外灯が気になる私は、サンシェードを張り、角のハイボールとコンビニ弁当を頂いて午前0時にお休みです。朝4時10分に起床すると、予報通り、雨は上がっていました。
駒ケ岳神社市営駐車場へは、尾白川渓谷の案内表示に従って進んで行くとあります。前方に甲斐駒ケ岳の山容が見えて来ました。20分弱で竹宇駒ケ岳神社市営駐車場へ到着です。駐車場には8台の車が置いてあります。横浜ナンバーの軽トラでお越しの健脚者がウォーミングアップをしています。5時に駒ケ岳神社へ歩きはじめますが・・・。帽子とサングラスを忘れましたのでUターンです・・・。背丈が高く健脚そうな軽トラハイカーさんとすれ違い、笑顔で挨拶を交わします。仕切り直して5時10分に再スタートです。
駐車場には案内図と皇太子甲斐駒ケ岳登頂記念碑があります。平成5年7月18日に七丈小屋に宿泊して、翌日に甲斐駒へ登頂、仙水峠へ抜け、仙丈ヶ岳へ登ったそうです。何れにしても表参道から登ったとは凄いと思います。黒戸尾根経由で登る場合、七丈小屋に一泊するかテント泊される方が多いみたいです。
歩き始めると、すぐに尾白荘前にも立派な皇太子登頂記念碑が立てられています。まずは、竹宇駒ケ岳神社で安全登山祈願参拝を速やかに済ませます。参道にはホタルブクロが健気に咲いています。
沢の清々しい尾白川の流れを聞きながら、定員5名の吊橋を貸切りで渡ります。周辺の景観は涼しさを与えてくれます。ずーと以前、尾白川渓谷へ訪れたいと思ったきりでしたので何処となく、馴染みを感じる風景です。
最初の分岐の尾白川渓谷と黒戸尾根の分岐です。いきなりの急登で、先程の吊り橋気分は瞬時に吹っ飛びます。ジグザク登りを体が温まるまで頑張って登ります。しばらくすると急坂もおさまり、休憩中の4名のハイカーと挨拶を交わしお先に失礼させて頂きます。
きつい坂が連続して、笹の平分岐点(横手駒ケ岳神社からの合流地点)に到着です。道標には甲斐駒ケ岳7時間と書かれており、??!!モードに入ってしまいそうでした。苔むした岩が目立って来ました。
新調した登山靴(アルパインクルーザ)を馴らし歩きしないで履いた為、先ほどから右踵が痛くなり、石碑がある少し平らな場所で、テーピング休憩に入ります。そして熊笹&松林エリアを進んで行きます。
地図上の前屏風の頭付近辺りに入ります。標高1800mにもかかわらず笹や松林が旺盛です。流石、森林限界の高い南アルプスです。左側に鳳凰三山がガスの中から現れました。地蔵岳のオベリクスが見えます。このままガスが抜けるのを祈りますが・・・。
苔むした道の“苔むす道”から、石ゴロの“苔石むす道”へと変わり、一気に視界が開けて来ます。目の前に尖がり岩が見えて来ました。
ようやく“刃渡り”に到着です。(英語で“ナイフリッジ”のことです) 予想を遥かに下回った難易度の低い岩場でした。「馬の背」と呼ばれるナイフリッジを少し想像していたので・・・。後方から物音が近づいてきます。赤いランニング姿の短パンランナーさんでした。話をすると2回目の黒戸尾根だそうです。駐車場を6時30分に出発して、登り3時間+下山2時間で全行程5時間と脅威な事をおっしゃっていました。まさしく私の倍速モードです。※ちなみに登山者の中では、早いペースですね。とお世辞を言って下さいました。
周囲の雲が著しく動き、雲海の中から八ヶ岳が見え隠れしています。このまま標高を上げて行くと、雲の上に出られる予感がしましたけれど、残念ながら期待は出来ない空模様になって来てしまいました。
梯子を登り切ると、祠と石碑が沢山ある刀利天狗(標高2,049m)に到着です。立派な石碑と2基の祠が祀ってあります。黒戸尾根コースは270年ほど前に拓かれた登拝道とのことで、随所に歴史を感じさせる史跡が残っています。
抉れた山道を登って行くと勾配が緩くなり、黒戸山への巻き道に変わって行きます。やがて鞍部の五合目小屋まで、勿体なくらい標高を下げながら進行します。
現在は取り壊された五合目小屋跡地に到着です。段下の鞍部の正面の岩山の下に小さな祠が祭られ、石碑、剣があります。
小腹が空いたのでおにぎりを頂き、小休憩に入ります。祠の裏へ回り込むと修験者が利用していた跡が伺えます。絶壁のように立ちはだかる岩尾根に向って、梯子が伸びています。
いよいよ梯子と鎖場の急登が始まります。手すり代わりのロープが片側に張られているので、両手を使ってサクサク登って行きます。しばらくすると、一旦下がり、木橋を渡って沢を横断します。橋を渡るとまた崖登りが待っています。
途中に剣が置いてありますので、熊よけの剣としてポーズをとってみました。ここから長い梯子の数々を登って行きます。ふと気付くと、心拍数が上がって来たのを感じます。梯子と鎖場で標高を上げているので、知らず知らずオーバーペース気味になってしまったようです。鼓動がおさまるまでゆっくり深呼吸です。以降は著しいペースダウンを余儀なくされました。
“気をつけ”の姿勢に負けない位、直立の梯子を登って行きます。恐らく『槍』の穂先にある梯子を超える傾斜です。足の置き場のきっかけが少ない岩場を鎖を引っ張りながら登って行き、進行すると七丈小屋が見えて来ました。
標高2,400mに立てられた七丈第一小屋(宿泊30名)に到着です。渇水する事もある水場ですが、本日は水量豊富でした。ザックに持ち水3リットルも残ってますので、ご賞味だけさせて頂きました。・・・心の奥底で声が聞こえて来ます・・・「重たい思いをして5リットルも背負って来なければ、もっと楽な展開だったのに・・・」
チップ制の綺麗なトイレを過ぎると、七丈第二小屋(宿泊20名)があり、更に右の梯子から登って行くとテント場が2箇所あります。下のテン場でゼリーを飲んで栄養補給です。
ハイマツ・ダケカンバ地帯になってくるとイワカガミの群生が目立ってきます。そして“刃渡り”で私を追い越していった、赤いランニング姿の短パンランナーさんが、早くも下山して来ました。トレイルランナーの中でも、スペシャリストの風格で風のように去って行きました。
視界不良の八合目御来迎場に到着です。数多くの石碑が立ち、山岳信仰の力を肌で感じます。手前にある石の鳥居は柱の一部が残っているだけでした。何れにせよ、近代技術の無かった時代に険しい立地条件の中、鳥居や大きい祠をどうやって設置したのか想像もつきませんね。
高山植物があちらこちらに咲いています。(ヤマハハコとイワハゼ)
コガネイチゴは本日初めてお目にかかります。ガスの切れ間から山頂方面が見えて来ます。
なんとな〜くアトラクション的な鎖場は、踏み跡が好意に付けられていますので、難なく登れます。鎖の先端には記念のプレートが取り付けられていました。
ハクサンイチゲの群生とタカネスミレ?が岩場の隅から元気に咲いています。
大岩の横に掛った鎖を登り込むと、ニョキッ、と立った岩峰二つが迫って見えて来ます。ツマトリソウの花は上品に見えます。
2本の剣が天に向け、刺さった大岩が見えて来ます。この大岩が九合目です。さらに近付き、九合目の剣を見上げながら巻いて進んで行きます。イワウメが随所に咲いています。
ハクサンシャクナゲが良い感じで咲いています。いよいよ山頂に近づいてきました。駒ケ岳神社駐車場で一緒になった、ダンディーな軽トラハイカーさんが下山をして来て、山頂はもうすぐですよ!と爽やかに声を掛けてくれました。
山頂の手前にある、東峰の駒ケ岳神社本社に到着です。駒ケ岳神社では、下段に祠等、上段に沢山の石碑が置かれいました。
木の囲いの中には、大己貴命(おほなむちのみこと)が鎮座した姿で祀られています。なんとな〜く囲い方が斬新なので、一瞬、大魔神を想像してしまいました。 目と鼻の先にある、本峰へと向かいます。
花崗岩と砂でできている甲斐駒ケ岳山頂(11:03)に到着です。昔は白崩山と言われたほどの、花崗岩の岩肌や砂礫の白い山です。修験道の威力不動尊をまつる祠がトレードマークになっています。
山頂には二人のハイカーが居るだけで、閑散としていました。お湯を沸かしている間、一等三角点を拝んだりして、ガスが抜けるのを待ちますが・・。
時折、陽は射しこんで来ますが、上空の雲が抜けるだけで、山頂から見えるはずの大パノラマは結局、残念ながら視界不良に終わってしまいました。やがて山頂は豪華貸切になり、気を取り直してカップヌードルを頂き、昼食です。
名残惜しいですが、天候の回復する見込みがないので、下山開始です。花崗岩の砂の上をサクサク下がって行きます。
岩場&鎖場&梯子主体歩きは腰を労わりながらの走行ですので、ちゃっちゃか歩けません。アトラクション的な鎖場で若者とすれ違います。三脚にカメラを付けたまま片手に持ってスイスイ上がって行きます。
テント場には、一張り設置されていました。七丈小屋を横目に通り過ぎます。右上の写真はチップ制のwcです。
途中で数名のハイカーを追い越しながら下がって行きます。山頂で一緒だったお方は梯子や鎖場等で、ステッキを使ったりしまったりしているので効率が悪く、ステッキを使わない私に道を譲ってくれました。
刀利天狗を過ぎ宿泊組、数組とすれ違います。早朝、歩き初めてすぐ追い越した4人組を又、追い越す事になりました。結局4人組は登頂を諦めての下山でした。梯子の下りは大分慣れて来て、前向きで両手でバランスを取って下がって行ける様になりました。
ヤセ尾根の刃渡り(距離的に中間地点)地点で、下山を始めて2時間10分経ちますが、まだ刃渡り?と疑うような下山コースの長さです。梯子と鎖場のない八丁登りを軽快に下がって行きます。やがて前方にヘロヘロおじさんがステッキを両手で持ち、斜めって歩いていました。申し訳気分で追い越して行きます。下山道がやたら長く感じ、よくこんなに登って来たものだと、自分に感心しながら下がって行きます。
やがて吊り橋が眼下に見えて来て、やっと!と言う気分でした。登って来たコースを帰るだけのピストンコースですが、一挙に2,200m標高を下げる帰路は、スペックの距離より長く感じる手強い黒戸尾根の下山道でした。竹宇駒ケ岳神社を横目に駐車場へと向かいます。
予定時刻の午後3時半前に駐車場に帰着です。下山時は天候も回復して富士山や南アルプスの山々も見え始めます。なんとなーく惜しい気分ですが、腰痛の私は、念願の表参道から甲斐駒ケ岳を無事日帰りで歩けましたので、充実感でいっぱいです。
長い長い道中で沢山汗を掻きましたので、予定していた最寄りの“むかわの湯”へと向かいますが・・・。気を取り直して帰路のR140号へ入り、吹笛の湯へと向かいます…!!(>_<)!!。 馴染みの大滝の湯は営業をしていましたので、安堵しました。地下の半露天風呂にゆっくり浸かり、疲れを癒します。
下記の写真は昭和35年頃、黒戸尾根からの貴重な写真4枚です。当時では珍しい、一眼レフで撮られたモノクロの写真で、当時の様子を伺えます。
※何時もお世話になっている「赤城の詩の野村さん」からの提供です。掲載にあたっては、私の自己責任で使用させて頂きました。
(左上の写真)刃渡りを下がって来る元祖、山ガールです。当時では一際目を引く、お洒落なワンゲルのレディーさんとの事です。今でも健在に山歩きをされているのでしょうか? 

(右上の写真)当時の七丈小屋は雑魚寝する小さな掘立小屋でした。囲炉裏を囲んで3人で雑談している様子です。小屋の主人(高木さん)らしき方は、手と足だけ写っている方かもしれません。対面の写っている方は山仕事(登山道の修復や薪集め等)を手伝いに来た地元の方か、小屋の主人の身内、お父さんかは定かではありませんとの事です。

九合目の2本の剣が刺さった大岩です。当時は剣のほかに、石碑が祀られていました。
山頂のシンボルの祠です。当時は綺麗な石段を登って祠をお参りしたのでしょうね。脇に守り本尊?があったようです。約50年前の貴重な写真です。
 
 おまけ 【日本三大急登】

@烏帽子岳ブナ立尾根=
標高差1,357m:登山口標高(約1,270m)=烏帽子岳頂上(2,627m)
A甲斐駒ヶ岳黒戸尾根=標高差2,197m:登山口標高(約770m)=頂上(2,967m)
B谷川岳西黒尾根=標高差1,303m:登山
口標高(約660m)=谷川岳頂上(1,963m)

 標高差は上記の通りですが、一般的に日本アルプスで一番厳しい急登コースは
 甲斐駒ケ岳の表参道(黒戸尾根)と言われています。

 黒戸尾根からの日帰り往復は、西黒尾根から歩く谷川連峰主稜線縦走(谷川岳〜万太郎山〜平標山)
 の日帰りコースに匹敵する程の難易度があり、標高2,000mを越えた鎖場や梯子の急登は、
 息が切れてペースダウンを余儀なくされました。
 

 ●赤城の詩sanから貴重な写真を提供をして頂き、ありがとうございました。
 
 天候 少しだけ晴れ、曇りのちガスガス、下山後は晴れで残念な天気でした。
 出会った人 18名位
 全く当てにならない疲労度:★★★★☆

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